テーマパーク事業のハピネス&サステナビリティストーリー
会話型アトラクションの手話通訳で
臨場感ある楽しさと感動を届けたい
東京ディズニーリゾートでは、すべてのゲストが楽しめるテーマパークを目指し、バリアフリーやノーマライゼーション*の取り組みを推進しています。そのひとつが2019年から始まった会話型アトラクションでの手話通訳です。ゲストの皆さまが安心して快適に楽しく過ごせるように――オペレーション推進部の担当者と手話通訳キャストが、その活動の軌跡とこれからについて語ります。
*社会的弱者を区別しないこと
会話型アトラクションで同時手話通訳を始めた我々の想い
すべてのゲストに、楽しく快適に過ごしていただくために
私は、オペレーション推進部に所属し、主にバリアフリーの推進を担当しています。
東京ディズニーリゾートには、世界中からさまざまなゲストが訪れます。すべてのゲストの皆さまが楽しく快適に過ごせるテーマパークとなるように、私たちオペレーション推進部では多角的に活動を続けてきました。その取り組みのひとつとして、東京ディズニーシーの「タートル・トーク」と東京ディズニーランドの「スティッチ・エンカウンター」の二つの会話型アトラクションで、同時手話通訳を行っています。リアルタイムでの双方向コミュニケーションを行うという特性上、聴覚に障がいのある方は、その「体験」に参加できないことがあります。そこで2019年に、まずは「タートル・トーク」から同時手話通訳をスタートしました。
私はキャストとして、会話型アトラクション内で手話通訳を担当しています。以前は、商品店舗のキャストとして勤務していましたが、手話は全くできませんでした。ある日お困りの様子のゲストにお声がけしたところ、なかなか伝わらず、後からようやく聴覚に障がいのある方だと気づいたことがあったんです。その方にあわせた対応ができなかったことがずっと悔やまれて、それを機に、ゼロから手話を学び始めました。
その後、キャストとしてさまざまな業務を担当しながら、聴覚に障がいのある方がいらした際に、手話での対応を行ってきました。現在は、会話型アトラクションにおける手話通訳の業務がメインとなっています。
手話通訳のワンシーン
アトラクション内の手話通訳は、当初は2アトラクションあわせて15回上映(週3日実施)でスタートしました。ありがたいことにゲストからたいへん好評をいただき、また社内からも「もっと充実させたい」と声が上がったため、現在は、曜日と回数を拡大し、合計36回の上映を行っています。「タートル・トーク」は毎週火・木・金曜日、「スティッチ・エンカウンター」は毎週月・水・土曜日に実施しています。手話通訳キャストは、現在5名が所属しています(2025年12月現在)。
もともと、東京ディズニーリゾートでは、視覚や聴覚に障がいのある方でも安心してお過ごしいただけるように、音声や文字でパークやアトラクションをご案内する「ディズニーハンディーガイド」の貸し出しを行ってきました。
各アトラクションにおいて、シーンにあわせた台詞や歌詞、注意事項などをお伝えするものですが、会話型アトラクションの即興で交わされる会話まではお伝えすることができませんでした。周囲の笑い声や手拍子の意味がわかれば、もっとお楽しみいただけるのではないか――それをどうにか工夫し解決したいというのが、私たちの願いでした。
ディズニーハンディーガイド
*貸し出しの際、本人確認書類をご提示いただきます
会話型アトラクションで手話通訳を行う際には、上映の前後にゲストと手話でお話しすることも多いのですが、あるご家族連れの感想が、とても印象に残っています。お子さまが「タートル・トーク」が大好きで、何度も訪れてくださっているということでしたが、お父さまは聴覚に障がいがあるため、お子さまたちが笑ったり手を上げたりする様子を、ただ眺めているだけだったそうです。手話通訳を初めて体験していただいた際に、「今日は初めて子どもたちと一緒に楽しめました」と話してくださり、とてもうれしく思いました。
アトラクションの世界観を伝える手話通訳の役割
手話通訳キャストは、手の動きだけでなく、表情や体の動きも用いて、ストーリーやキャラクターなどの世界観をわかりやすく伝える必要があります。とはいえ、キャラクターよりも注目されることがないよう、手話通訳キャストの皆さんには、アクションの大きさを調整してもらっています。
手話は、学んだ時期や環境によって、同じ言葉でも表現が異なることがあります。そこで、5名の手話通訳キャストで話し合って、共通のわかりやすい表現に統一するなど、ゲストの皆さまがいつでも同じクオリティで楽しめるように心がけています。
手話を必要としないゲストの方でも、帰り際に「私も手話を始めてみたいです」と感想を伝えてくださる方がいらっしゃいました。エンターテイメントの場に、手話通訳がいることがあたりまえになっていくといいなと思います。
ハード・ソフト両面から実現する、パークのバリアフリー
継続的に取り組んできたバリアフリーの進化
東京ディズニーリゾートでは、すべてのゲストがテーマパークを快適に楽しめるよう、継続的にバリアフリー化に取り組んできました。その成果として、段差をスロープにして、幅広いエリアで、車イスや電動カート、ベビーカーをご利用の方が自由に移動できるような環境が広がってきています。
ラプンツェルのランタンフェスティバル
ノーマライゼーションの実現は、キャストの力にかかっている
障がいやお困りごとは人それぞれに多様で、ハード面の取り組みだけですべての方にお応えするのは難しいと考えています。そこで私たちが力を入れているのが、ソフト面の取り組み、つまり手話通訳に代表されるように、キャストの力で、バリアフリー・ノーマライゼーションを前進させることです。
例えば、お困りの様子のゲストがいれば、お声がけをしたり、手を差し伸べたりして積極的に手助けをする。そのために、社内で「ノーマライゼーション・クリエイタークラス*」を実施しています。
さらに、ただ「手助けしたい」という想いがあっても、適切な手助けができるとは限りません。「足の機能が低下している方はどう手を引いたら安全なのか」「ご高齢の方はどんなサポートを必要とするのか」など、具体的な知識やスキルがあるとより安心です。そこで、2005年からスーパーバイザーに向けて「サービス介助士」の資格取得を進めてきました。2023年からは、パークの最前線でオペレーションを担うテーマパークオペレーション社員にまで対象を拡大し、現在、年間平均300名が資格を取得しています。
*パークオペレーション部門の従業員が受講し、ゲストとキャストの多様性を理解し、受容するマインドとスキルを学ぶ研修。
すべてのゲストが快適に楽しめるテーマパークを目指して
安心・安全に過ごしていただくための仕組みづくりを推進
私たちオペレーション推進部が現在、検討を進めているのが、災害などの緊急時に、すべてのゲストに確実に情報をお伝えする仕組みづくりです。
また、東京ディズニーリゾートにおけるバリアフリー・ノーマライゼーションのサービスやツールについて、全従業員にもっと知ってもらうための取り組みも大切です。私たち手話通訳キャストも、社内の掲示板に手話の紹介記事を張り出す啓発活動を始めました。
実は、こうした情報が届きにくいのは、障がいのある方に限りません。異なる言語を話される海外からのゲストも同様なのです。バリアフリー・ノーマライゼーションの仕組みを、すべてのゲストがパークで安心・安全に過ごすために役立つものにするのが、私たちの目指すところです。
ゲストがハピネスを感じる「東京ディズニーランド」「東京ディズニーシー」を追求し続けたい
手話には、語り手の感情が表れますし、その人らしさも出てきます。私たち手話通訳キャストが目指すのは、「テーマパークらしい豊かな手話表現」です。キャラクターの個性、音楽や効果音の情感までも手話で「見える化」するために、手話表現を日々磨いていきたいと考えています。
テーマパークでの体験はその日限りではなく、ゲストの皆さまの一生の思い出となるものだと考えています。また、東京ディズニーリゾートではあらゆる年代、さまざまな国籍のゲストがいらっしゃいますが、私たちがいつも口にするのは「すべてのゲストがVIP」という言葉です。誰もが尊重されて、個性を認められて、大切にされる存在であること――そう感じていただける体験を提供するのが、私の使命だと考えています。
ゲストが東京ディズニーリゾートで過ごす時間は、最大で12時間といわれます。私はその時間を、皆さまが安心と快適さに包まれて過ごせるようにできたらと考えています。
東京ディズニーリゾートでは、長年の取り組みを通じて、バリアフリー・ノーマライゼーションが文化として定着してきました。今後、さらに進化を続け、すべてのゲストの皆さまがハピネスを感じるひとときを、創り出していきたいと考えています。
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